家族。それは一番近しい存在であり強い結びつきを持つ共同体です。ところがその家族が必ずしも問題がないかというとそんなことはありません。はたから見れば何ら問題がない家族でも、内側から見ると様々な問題をはらんでいることがあったりします。
今回僕が見た『普通の人々』という作品は、まさにはたから見たらわからない家族内の問題をリアルに描いた作品です。
本作ではよくある「家族サイコー」のような薄っぺらい話ではなく、家族と言えど人間であり、互いに理解しようとしてもできないことがある、時にはどうしようもないぐらいに関係性がこじれてしまうことがあることを教えてくれています。 今回はこの作品を見て僕が思ったことや感じたことを中心にお伝えしていこうと思います。
※ネタバレありなのでご了承ください!!
普通の家庭が崩壊していく様子がとてもリアル
本作では父、母、そして高校生の息子という3人家族の様子が描かれています。一見すると普通の家族のように見えるんだけど、実はその裏には重大な出来事があってそれが家族に暗い影を落としています。その出来事というのは
「長男の事故死」です。
長男のバックは次男のコンラッドともに湖でボートに乗っていたところ、ボートが転覆し帰らぬ人に。後にコンラッドはショックから自殺未遂を起こしてしまいます。
コンラッドはそのまま精神病院へと入院。4か月後には退院して家に帰ることになるのですが、彼のトラウマが払しょくされたわけではありません。精神的に落ち込むことも多くふさぎ込む日々を過ごします。
こんな時に頼りになるのが家族と言いたいところですが、母親のベスはコンラッドに対してどこかよそよそしい態度。父親もコンラッドのことを案じてくれてはいるのですが、気を使っていることもあって、コンラッドをうまく支えることができません。
兄のバックが生きているときと兄が亡くなった後で家族の関係は明らかに変わってしまった。もともと母親のベスは長男バックのことをとても愛していて、実は次男のコンラッドにはそこまで愛情を持っていなかったんですね。でも、バックがいたからこそ関係性は保たれていた。言ってしまえばバックが家族関係を良好に保つ潤滑油のような存在だったんです。その彼がいなくなってしまったことで家族の関係というのは徐々に悪くなっていきます。
この家族の崩壊っぷりというのがとてもリアルでね。一気にというわけではなく徐々に崩壊していくさまが「あー、こういうのがまさに家族だよなぁ‥‥‥。」と思いました。
家族って決して美しいだけのものではなくて、ドロドロしたものもあるし、夫婦間、親子間、兄弟間でも様々な問題を抱えているものですよね。家族だからこその苦しさとか、距離が近いからこその問題解決の難しさなどなど決して素晴らしいだけのものではないわけです。そういう家族のネガティブな面をうまく描いているのが個人的にはとても素晴らしいなぁと思ったし、心にずしんと響く作品でした。
精神疾患と向き合うことの大変さがとてもよくわかる
自殺未遂をしたコンラッドは精神病院から退院した後も精神的に不安定な状態でした。それまでの彼は水泳部と合唱部に所属し友達もいてという感じでどちらかというと活発な青年だったんです。
ところが自殺未遂をした後は、明らかに様子が変わります。まず友達との関係性。それまで楽しく付き合っていた人たちとも楽しく付き合えなくなってしまう。バカ話が出来ない、一人でいたい、そんな風に思ってしまい友達との間に溝が出来てしまうんです。学校でも孤立しがちになってしまうんですね。
周りから見るとコンラッドは別に病気のようにも見えないし前よりも多少暗いかもしれないけども、以前とはそんなに変わっていないようにも見える。でも、コンラッドの中では明らかにこれまでの生活をするのがつらい。だから友達に「ほうっておいてくれ!!」なんて言ってしまうんです。すると友人達からすると「何だよあいつ!!」となっちゃうんですよね。
この辺のコンラッド苦悩というのが作中すんごい伝わってきてこちらも胸が痛くなるぐらいでした。僕はコンラッドのような立場になったことはないけども、精神疾患になるとこんなにつらい状況に陥るのかというのがよくわかりましたね。
また作中、彼が精神病棟で一緒だったカレンという女性が登場します。カレンとは病院を退院したあと会うわけですが、その時は元気だったんですね。ところがのちに彼女は自殺をしてしまいます。はたから見ると回復したかのように見えても、実はその中にとてもしんどい思いを抱え込んでいきている、そんな精神疾患を抱えた人が直面する現実の厳しさをこれでもかというぐらい突きつけられるそんな場面でした。
また、コンラッドは父親から紹介されてカウンセリングを受けたりもしています。最初はカウンセラーにもあまり心を開かなかったコンラッドだけど、徐々に自分の思いを口にしていきます。
このカウンセリングによってコンラッドが徐々にいい方向に向かっていくっていうのは救いがありましたね。はたして作中のカウンセラーのやり方が正解なのかどうかは分からないですが、コンラッドが最初は言えなかった家族への思いとか自分は愛されてないっていう本心とか、そういうものをカウンセラーにバンバンぶつけていく。そんでカウンセラーの「自分を許せ!!」っていうセリフね。このセリフがすげぇ印象的でした。これでコンラッドはだいぶ救われたんじゃないかなぁ。
こういうカウンセリングの場面も含めて本作は精神疾患と向き合うことがいかに大変かということを教えてくれたような気がします。
まとめ
というわけで今回は『普通の人々』という作品を見た感想を中心にお伝えしてみました。
本作は家族のこと、精神疾患のことなど決して明るいだけじゃない、そんな現実を丁寧にそしてリアルに描いた心に深く残る作品だと思っています。
興味がある方はぜひご覧になってみてください♪
それでは今回はこの辺で失礼します!